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水文観測施設の写真

調査のねらいとスケジュール

 水源環境保全・再生のために森林で行われる各種対策事業について、水源かん養機能の観点から効果を検証するために、地質等の異なる県内の4地域にそれぞれ試験流域を設定して、対照流域法によりモニタリング調査を行います。
※対照流域法とは?

 下層植生が衰退した水源林において、森林整備やシカの管理などの対策事業を行うと下層植生が回復します。このモニタリング調査では、下層植生の回復による下流への水の流出の変化を調査して、水源かん養機能の観点から対策の効果を検証します。調査にあたり、あらかじめ既往の科学的知見を基に仮説を設定し、変化が現れると想定される項目を中心に継続して調べて変化を確かめています。
水源環境保全・再生施策における本モニタリングの位置づけについては、こちらをご覧ください

対策の効果の仮説


 これまで、第1期5か年計画の期間に4か所の試験流域を順次設定して調査を開始し、第2期には実験的な対策を行い、その後は対策の効果を確かめる調査を継続しています。
各試験流域におけるモニタリングの手順の説明はこちら

実行5か年計画に基づくスケジュールの図


試験流域と調査の内容

 県内の4箇所に設けた試験流域は、それぞれ地質などの自然条件やシカの影響などの水源林の課題が異なります。このため、対策の内容が異なり、対策効果の現れ方も異なる可能性があります。そこで、試験流域ごとに重点的な検証のテーマを設けています。
  特にシカの影響が大きい丹沢山地では、「下層植生回復による水源かん養機能改善」について地質等の異なる大洞沢とヌタノ沢で検証しています。また、小仏山地と箱根外輪山では、水源林の多くがスギやヒノキの人工林であるため、「適切な人工林管理による水源かん養機能保全」について地質の異なる貝沢とフチヂリ沢で検証しています。

4箇所の試験流域のモニタリングのねらい

試験流域4か所の位置


 各試験流域における検証の方法は、「対照流域法」と呼ばれる研究手法によります。これは、試験流域として2つの小流域をペアで設定し、一方だけで対策を行い、対策の実施前後や対策の有無によって生じる水流出の違いを把握するものです。
 たとえば、東丹沢の大洞沢、西丹沢のヌタノ沢では、2つの小流域のうち一方を流域ごと植生保護柵で囲んでシカを排除し下層植生を回復させます。もう一方のシカが多く生息する下層植生の衰退した流域と併せて、下層植生の有・無や下層植生の回復前・後における水流出の差異を把握します。

丹沢山地の対照流域法のイメージ


 この対照流域法による調査では、対策を実施した流域と実施しない流域を比較していくため、気象・地質等の自然条件の類似した隣接した小流域をペアで設定しています。しかし、それでも2つの小流域の自然条件が完全に一致することはまずありません。このため、一方の流域の対策を行う前に、2~3年程度、もともとの水の流出の特性を把握する必要があります。

試験流域における調査の手順


 このモニタリング調査では、下層植生の状態など流域内の森林・植生の状態と水の流出(量と質)を関連づけながら、継続してデータを取得します。調査項目には、降雨や水量など常時観測するものと、数年おきに行う植生の調査のほか、初期に1回だけ行う地質や土壌の性質の調査などがあります。

4箇所の試験流域の調査項目の表


 これらの一連の調査については、調査項目が多岐にわたり、調査手法も確立されていないものもあることから、外部の研究機関や調査会社などと連携をしながら実施しています。


これまでの調査でわかったこと

 森林整備やシカの管理などの対策事業によって生じる水源かん養機能への効果については、現在、各試験流域において検証中です。しかしながら、これまでほとんど知られていなかった神奈川県の水源林における水流出などの特性が、この対照流域法によるモニタリング調査によって明らかになりつつあります。

 たとえば、各試験流域について年間の降水量と水の流出量の関係を比較したところ、シカの影響の有無や林相(人工林と広葉樹林)の違いはあるものの、概ね年間降水量の6割程度が流出していました。ただし、年間降水量は試験流域によって大きく差があり、たとえば2013年の年間降水量では、約2500㎜の大洞沢に対して貝沢では約1500㎜とおよそ1000㎜の差があり、流出量の違いにも反映していました。さらに、大洞沢やヌタノ沢といった丹沢山地では、降水量に対する流出量の割合が極端に小さいまたは大きい小流域がありました。これは、地下構造が影響していると考えられます。このように降雨の特性や地質などの自然条件の違いから、神奈川県の水源林の水流出の特性も多様であると言えます。

各試験流域の水収支を示したのグラフ


中間成果ほか公表済み情報


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