ブナはオゾンへの感受性が高く、高濃度のオゾンにより成長が阻害されたり生理的な機能が低下します。
丹沢山地の檜洞丸では、植物成長期間(5月から9月)に、高濃度のオゾンが記録されることがわかりました。特に、卓越風が強く当たる南から南西方向の斜面では、オゾンや風の影響が強く、衰退との関連性が指摘されています。
丹沢山地周辺の大気環境
丹沢山地周辺の大気環境は現在下記のようなことがわかっています。
- 硫黄酸化物は1975年代前半までに改善が進み、1980年代以降は環境基準を達成し、1990年代以降は大幅に低下しています。
- 神奈川県の光化学オキシダント(オゾン)は1972年が最も高く50ppbであったが、1980年代は30ppb前後で推移し、その後20ppb代後半で徐々に低下しています。
- オゾンを生成する前駆物質は1980年代より大きく減少しているが、オゾン濃度は上昇しています。
- オゾン濃度は、近年、植物の生長期間の一部である春季に特に急激に上昇しています。
- オゾン濃度の上昇に伴いAOT40も上昇が見られ、特に春季は2000年代後半では1990年代の約2倍にまで上昇しています。
丹沢山地の大気環境
- 山地での観測ではSO2、NO2は都市部に比べて低く、樹木(ブナ)に影響を及ぼすレベルではありませんが、O3(オゾン、光化学オキシダント)は都市部の約2倍の濃度で樹木(ブナ)に影響を及ぼす可能性があるレベルです。
- 丹沢山域の測定局である犬越路(標高約900m)のAOT40は他の地域よりも高い状態にあります。1990年代から夜間のAOT40が全日のAOT40に占める割合が上昇してきており、夜間のオゾン曝露が進んできています。
- 標高1400m以上の主稜線部でも、ブナの成育に影響が高濃度のオゾンが発生しており、夜間にも濃度が低下しないなど平地とは異なる挙動が観察されています。
- 現地観測とモデル解析の結果、一定の条件により丹沢上空に高濃度のオゾン気塊が存在(移流)していることが確認されつつあります。
- 丹沢山地地域が高気圧に覆われている又は南高北低の気圧配置に置かれるとき、丹沢山地地域でオキシダント濃度が高くなることが多いです。
- 大気汚染物質の移流経路として大きく2パターン(東京湾、関東平野方面からの移流と駿河湾方面からの移流)があることが明らかにされつつあります。
高濃度オゾンのブナへの影響
- ブナは高濃度オゾンに対する影響が大きな樹種のひとつであることが確認されています。
- 衰退が激しい檜洞丸では日中の平均値でも約12%の成長率の低下が見込まれます。
- 環境科学センターの実験では丹沢山地の大気条件下では、清浄な大気条件と比較して、ブナの苗木は成長が大幅(地上部、地価部ともにおよそ60%)に低下することが確認されています。ただし、オゾンでブナが枯死するわけではありません。
- 農業技術センターの実験では、高濃度オゾンを暴露すると、根部の発達が不良となることが示されつつあります。
航空機観測による平塚上空のオゾン濃度分布(95/8/2 15時)
オゾンゾンデによる鉛直オゾン濃度分布
丹沢地域における大気汚染と気象の立体分布(平成21年度)を観測しました。
<オゾンゾンデ観測>
放球地点: 2009年8月6日14時30分
放球地点:足柄上地域県政総合センター(開成町吉田島2489-2)
上昇速度:200m/分
最低観測高度:地上10,000m
オゾンセンサー:メーカー:EN-SCI 型式:1Z ECC-O3-SONDES
丹沢山地の標高とオゾン濃度の関係
丹沢山地では標高が高くなるほどオゾンの濃度が高くなることが明らかになっています。
衰退が進む地域の平均オゾン濃度分布
高濃度のオゾンは丹沢山地の主稜線部で観測されており、各山の山頂の平均オゾン濃度は高い値が観測されています。
オゾンと二酸化硫黄の複合影響
高濃度オゾンと高度二酸化硫黄の大気下ではブナは大幅な成長低下が認められています。
オゾンによる樹木成長の低下率
衰退が激しい檜洞丸では日中の平均値でも約12%の成長率の低下が見込まれています。
オープントップチャンバーを用いた大気影響試験の結果
丹沢の現状のオゾンにより、ブナのクロロフィル量が下がる・秋に黄葉、落葉が早まる・樹高、乾燥重量等生長量が低下することが明らかになっています。
環境科学センター 武田ほかによる