丹沢山地のブナ帯は、1980年代までは積雪が多く、ニホンジカは越冬できないため、生息の高密度化はほとんどありませんでした。 しかし、暖冬少雪傾向が顕著となる1990年代中頃から、主稜線部の鳥獣保護区でシカの越冬がみられるようになり、集中高密度化が進んでいきました。 この傾向は2000年代に入るとさらに顕著となり、1990年代半ば以降、ブナ帯でのスズタケ消失、ミヤマクマザサの矮化、林床植生の消失などが加速していきました。 ニホンジカはブナ稚樹の若枝、若い葉、冬芽を採食するため、それらの植物の更新を妨げる要因となっています。
シカの分布の変化
東丹沢におけるシカは、分布がせばまっていた1960年代以降から徐々に山ろくにその分布を広げてきています。ブナ林を含む高標高域における過密化の影響によるエサ植物の減少、また、中標高域の人工林の荒廃に伴うエサ植物の減少、さらには手入れ不足で放置された里山でササ藪が増えたことも分布を拡大させている原因であると考えられています。シカの分布が拡大した山ろくでは、農林業被害の増加・恒常化が問題になっています。
シカの移動と狩猟
丹沢山地のシカには、年間を通して鳥獣保護区内に生息する定住型の個体と、狩猟の季節にだけ鳥獣保護区に移動してくる移動型の個体がいることがわかってきました。このことは、鳥獣保護区に囲まれたブナ林のシカの密度を、狩猟が上昇させていることを裏付けています。したがって、シカの適切な管理のためには、狩猟や管理捕獲を実施する際の場所や時期を変えるなど、シカの生態を考慮する必要のあることがわかります。
シカによる林床植生の変化
シカの採食により林床植生の衰退が起きています。特に草本類の枯れる冬にシカが好んで採食するササは強い影響を受け、林床植生のササが占める割合が大幅に減少しています。特に大山から塔ノ岳にかけての表丹沢や、檜洞丸から丹沢湖周辺にかけて、中川川源流部といった地域にその傾向は顕著に見られます。
シカの過密化
丹沢山地のシカは特に鳥獣保護区において過密化している傾向があります。ブナ林の生育している高標高地域も特別保護区や鳥獣保護区に指定されており、特に東丹沢においてシカの過密化が顕著に見られます。