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ブナ林の保全・再生対策

奥山域の特にブナの枯死が著しい箇所および周辺箇所での積極的なブナ林再生対策と衰退機構解明のための研究を実施します。


ブナ等森林再生の実証試験

内容

  • 目的 森林衰退が顕在化している奥山域のブナ帯森林における森林再生を図る。
  • 概要 森林衰退が顕在化している高標高域のブナ帯森林において、その地域固有の遺伝子を持った樹種による森林再生を図るため、シカによる実生・稚樹の採食を防止するための植生保護柵の設置と併せて、天然更新による手法と、事業計画地で採取した種子から育苗した苗木を植栽する手法の併用による自然林再生の実証試験を行なう。

ブナ帯森林再生事業として、平成19〜20年度に天王寺尾根(0.35ha)および丹沢山から竜ヶ馬場の稜線部(0.60ha)において、植生保護柵を設置するとともに、竜ヶ馬場の稜線部では丹沢山産種子から育苗したブナ、マユミほか5種の苗木の植栽を行ないました。


  平成19年度 平成20年度 平成21年度
場所 堂平 堂平、天王寺尾根、
丹沢山、檜洞丸
堂平、天王寺尾根、
丹沢山、檜洞丸
内容 植栽木調査
天然更新調査
過去の試験地の追跡調査
植栽木と天然更新木の
追跡調査、
種子散布量調査
植栽木と天然更新木の
追跡調査、
種子散布量調査
植生保護柵
設置
0.35ha
(4基・544m)
0.60ha
(5基・636m)
-
ブナ帯森林再生実証事業
ブナ帯森林再生実証事業
植生保護柵設置による更新の確保
植生保護柵設置による更新の確保

実施状況

1)植栽木の生残と樹高成長

上記の試験地に、平成18年度に植栽した堂平の試験地を加えて、追跡調査等を行ったところ、ブナの生存率は高く、植栽後2年経過した堂平ではブナで94〜97%が、シオジで99%が生存していました。ブナの樹高成長率は91〜113%でした。


2)天然更新木の生残と樹高の変化

ブナについて2年間の密度と樹高の変化をみると、柵外の密度は前年度の32〜46%に低下したのに対し、柵内の林冠下では90〜92%、柵内のギャップでは69〜81%でした。

ブナ等森林再生の実証試験




ブナ林保護対策工法の開発

内容

  • 目的 ブナ苗や稚樹に対して大気汚染の影響を緩和するため、オゾン除去ネット等の物理・化学資材を用いた手法を開発する。
  • 概要 ブナ苗の周囲に保護ネットとして設置することによりオゾン除去能力が期待できる物理化学資材のオゾン低減効果を、試作ネットによる屋外試験及びオゾンチャンバーを用いたラボ実験により確認する。

  平成19年度 平成20年度 平成21年度
内容 資材1:
活性炭と珪藻土を配合した水性塗料の試験
資材2:
高活性炭素繊維(ACF)製フェルトの試験
現地試験の実施を自然環境保全センターへ引き継ぎ


実施状況

‘活性炭塗料を塗布したネットによる囲い’での野外試験
ブナ林保護対策工法の開発
屋外試験(試作ネット)

高密度ポリエチレン製3mm×3mm格子状ネットで幅1.5m×奥行1.5m×高さ1.0mの囲いを作成し、ネットに活性炭と珪藻土を配合した水性塗料を塗布して、塗布前後の囲い内外のオゾン濃度をオゾン自動測定器及び拡散型パッシブサンプラーにより測定して比較しました。
結果、塗布前は統計的に有意に囲い内が低くなりましたが、その差は中央値で1.2ppbとわずかでした。塗布後は統計的に有意に囲い外が低くなり、その差は中央値で0.1ppbでした。また、60ppb以上の濃度では、塗布前の囲い内で統計的に有意に5ppb低くなりました。
以上の結果から、活性炭塗料を塗布したネットで囲いをする手法では、オゾン除去効果が低いことがわかりました。


‘活性炭塗料を塗布したネット’を用いたオゾンチャンバーのラボ試験
オゾンチャンバー、ネットを用いたラボ実験
オゾンチャンバー、ネットを用いたラボ実験

屋外試験で有効な効果が認められなかったため、活性炭塗料単体での効果を確認する目的で、屋外試験と同様のネットで200mm×200mm×200mmの立方体(底面は板張り)を作成し、屋外試験と同様の活性炭塗料を塗布して、塗布前後の立方体内外のオゾン濃度をオゾン自動測定器により測定して比較しました。
その結果、塗布ありの場合となしの場合共に、チャンバー内が約30〜40ppbのときネット内が約4.4ppb、チャンバー内が約80〜90ppbのときネット内が約8.8ppb、チャンバー内が約110〜120ppbのときネット内が約12.5ppbそれぞれ低くなり、塗布ありとなしで変化がありませんでした。
以上の結果から、3mm×3mmの格子状のネットに活性炭塗料を塗布した資材では、オゾンの吸着がほとんど起こらないことがわかりました。


オゾンチャンバーを用いたラボ試験
オゾンチャンバーを用いたラボ試験
オゾンチャンバーを用いたラボ試験

高活性炭素繊維(ACF)製フェルト資材のオゾン除去能力及びフェンスとして使用した場合のオゾン低減効果を、オゾンチャンバーを用いたラボ実験により確認した。実験は、@1枚のフェンスを設置した場合、A前後に2枚のフェンスを設置した場合、Bスリット型フェンスを設置した場合の3種類のタイプについて行いました。
ACFフェルトを通気させることによりオゾンが100%除去されることがわかりました。また、ACFをフェンス資材として用いた場合、@1枚のフェンス直後下部に濃度が平均29%低下する空間が現れ、A2枚のフェンス間下部に濃度が平均15.8%低下する空間が現れ、B連続スリット型フェンス後の広い範囲に濃度が平均24.6%低下する空間が現れ、C単体スリット型フェンス後の狭い範囲に濃度が平均20.4%低下する空間が現れ、いずれの場合もクリティカルレベル以下にオゾン濃度を低減できることがわかりました。


結果、活性炭塗料を塗布したネットで囲いをする手法ではオゾン除去効果が低かったが、高活性炭素繊維(ACF)製フェルト資材ではオゾン濃度を低減できることがわかり、ブナの苗木や稚樹の保護対策に有効な資材を選定することができました。



ブナ林衰退機構の解明

内容

  • 内容 山頂付近のオゾン等の気象観測やブナハバチ等の発生原因の究明、水分ストレスなどについて調査研究し、複合的要因によるブナの衰退原因を解明する。

実施状況

大気観測

丹沢および周辺部におけるオゾン濃度について1976年以降のデータを解析したところ、すべての地点で春季(3〜5月)に平均オゾン濃度が高いこと、山地のほうが平野より高濃度になり夜間も濃度が低下しにくい等の傾向がみられました。また、周辺地域の観測結果を解析した結果、オゾンを生成する前駆物質は1980年代より大きく減少している一方でオゾン濃度は上昇していること、オゾン濃度は植物の生長期間の一部である春季に特に急激に上昇していることがわかりました。


オゾン影響調査
夏季集中大気観測におけるオゾンゾンデ観測風景
夏季集中大気観測における
オゾンゾンデ観測風景

丹沢山地におけるオゾンによるブナへの影響を把握するため、犬越路でオープントップチャンバーによる野外実験を行ったところ、オゾン等の汚染物質を浄化した大気下で生育するブナ苗と比較して、非浄化大気下のブナ苗は、秋に葉のクロロフィル量が低下するとともに、落葉の時期が早まり、生長量も約70%に低下しました。これらのことから、オゾンでは枯死に至らないがブナ苗の生長に影響を与えていることが確認されました。


ブナハバチ発生のモニタリング調査
ブナの葉を食べるブナハバチ幼虫
ブナの葉を食べるブナハバチ幼虫

ブナハバチの発生状況について繭や成虫等のモニタリング調査をしたところ、ブナハバチの繭は被害の小さい地域(三国山、菰釣山)では低密度であるが、被害発生地(大室山、檜洞丸、丹沢山)では高密度で存在していました。また、ブナハバチは開芽直後のブナの新芽にのみ産卵する習性から成虫の羽化する時期がブナの展葉より先んじるか一致した場合には一雌成虫あたりの産卵数が多くなると解釈できます。
これらのことから、大規模な食害は、繭が高密度で存在する地域において、成虫が大量に羽化するとともに羽化と展葉のタイミングが一致することのすべての条件が揃うことで、初めて生じると考えられます。
また、これまでの成果を「ブナハバチ対策マニュアル−モニタリング編−」として取りまとめました。


ブナ衰退の推移

丹沢山、檜洞丸をはじめとした6地区の計72地点で、ブナ衰退度の判定と樹木生理活性の測定を行ったところ、東丹沢で衰退が進行したブナが多く、西丹沢では衰退木が少ない傾向があり、5年前と比較して衰退状況に大きな変化は見られませんでした。
また、過去の空中写真を利用してブナ等の高木本数を1970年代と2000年代とで比較したところ、丹沢山と蛭ヶ岳とで本数の減少が著しく、さらに丹沢山では南西方向の尾根部分で草地化が進んでいました。
一方、檜洞丸では、北斜面に草地化や樹木の衰退は認められませんでした。なお、過去の空中写真では精度(画質)や撮影時期(季節)にばらつきがあるため、さらに精査が必要です。



植生保護柵などによるブナの稚樹保護対策

  • 内容 ブナの母樹を中心とした植生保護柵を設置し、土壌の乾燥化を防ぐとともに、シカの採食圧から稚樹を守り、天然更新を促す。
  • 概要 丹沢大山国定公園の特別保護地区及び特別地域内への植生保護柵の集中的な設置によって高標高域の稜線部でのニホンジカの生息地管理を行ない、ニホンジカの管理捕獲との一体的な実施によってニホンジカの生息密度の低減を図るとともに、後継樹の保護、絶滅危惧種・希少種の保護・回復を図る。

実施状況

植生保護柵設置による更新の確保
植生保護柵の設置効果(竜ヶ馬場付近)
植生保護柵の設置状況(丹沢三峰付近)
植生保護柵の設置状況(丹沢三峰付近)
植生保護柵の設置・点検・修理

平成19〜21年度に、シャガクチ丸、丹沢三峰〜丹沢山〜塔ノ岳、および大山山頂周辺において植生保護柵(8.11ha)を設置しました。また、562本の樹木に樹幹保護ネットを設置しました。さらに、過去に設置した植生保護柵の機能維持を図るため、植生保護柵の巡回点検(延べ120.39km)・修理(延べ1033.5m)を行いました。
これまでに設置した植生保護柵内外の天然更新木植生回復状況等についての調査を行ったところ、面積0.1ha未満の小さなブナ枯れ地では、ブナやシナノキ、イヌシデ、カエデ類の実生が多数発生し、柵内では柵外よりも生存率と樹高が高くなっていました。
一方、大きなギャップ下では、種子の散布量も少なく、実生発生数も少なく見られました。
これらの結果から、小ギャップでは植生保護柵を設置することで、成長が比較的早い樹種を中心とした自然林の構成樹種による森林化は可能と判断されます。また、大きなギャップでは、埋土種子にニシキウツギやミヤマイボタなど低木種の種子を多く含むデータがあるため、ミヤマクマザサの繁茂とシカの影響を除去することで潅木林へ遷移させることは可能と推測されました。

植生保護柵の設置実績
植生保護柵の設置実績


オゾン等に強い丹沢地域産樹種の苗木生産

  • 内容 オゾン等の影響に強い可能性のあるブナ等の母樹から種子を採取して苗木を生産する。

オゾン等の影響に強い可能性のあるブナ等の母樹から種子を採取して苗木を生産することを目的としました。
平成19年度に丹沢山と檜洞丸においてブナ、シナノキ、オオイタヤメイゲツなど13種の樹種の種子を採取し、平成20年度から育苗を行った結果、多数の苗木が得られました。
なお、平成20年度にはブナ帯森林再生事業(丹沢山)において、本事業により生産された苗木160本(サワグルミ170本、マユミ80本、ブナ65本、イタヤカエデ44本、ミズキ16本、フジイバラ5本)が植栽されました。

オゾン等に強い丹沢地域産樹種の苗木生産

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