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- ブナ再生に向けた取組み
- ブナ林の衰弱・枯死影響の低減対策
奥山域でのブナ林衰退の原因となるシカの生息密度を低減するとともに、ブナ帯森林の土壌流出防止のため土壌保全対策を実施し、林床植生の回復を図ります。また、土壌の安定や、希少植物を保全するための植生保護柵を設置します。
シカの個体数調整
内容
奥山域の国定公園特別保護地区周辺ではシカの密度が高く、林床植生の劣化が著しいのでシカの管理捕獲による高密度化の低減を図ります。
シカ保護管理計画に基づき計画的に実施しました。生息動向モニタリングの結果、植生回復目的の管理捕獲を実施した箇所では生息密度は減少傾向にあり、管理捕獲による一定の効果が認められました。一方、生息密度が増加した管理ユニットもあり、管理捕獲の影響によるシカの他地域への移動や隣接県からの移出入も考えられ、全体的に見れば推計生息頭数は減少していません。また、囲いわなによる捕獲の可能性は認められたが、高頻度の巡回が課題と考えられました。
実施状況
シカ管理捕獲
植生回復目的の管理捕獲については、主にメスジカを対象として、56の管理ユニットのうち11ユニットで実施しました。捕獲頭数は生息状況調査や捕獲個体分析で得られたデータからシミュレーションを行い、その結果を参考に定めました。平成19年度は捕獲目標を350頭とし、357頭を捕獲しました。平成20年度は目標を350頭とし、330頭を捕獲しました。平成21年度は目標を350頭、47回の実施を予定しています。当初計画では捕獲目標頭数を減らしていく予定だったが(平成20年度で320頭、平成21年度で210頭)、生息動向調査や植生調査の結果から、生息密度が依然として高く、植生回復が全体的に見られないことから350頭に設定しました。
管理ユニット | 平成19年度 | 平成20年度 | ||
捕獲頭数 | 実施回数 | 捕獲頭数 | 実施回数 | |
中川川上流A | 60頭 | 9回 | 44頭 | 8回 |
中川川上流B | 42頭 | 7回 | 30頭 | 5回 |
中川川上流C | - | - | 8頭 | 1回 |
丹沢湖B | 79頭 | 11回 | 124頭 | 14回 |
丹沢中央A | 1頭 | 1回 | 6頭 | 1回 |
丹沢中央B | - | - | 15頭 | 1回 |
丹沢中央D | - | - | 19頭 | 2回 |
丹沢南麓C | 31頭 | 8回 | 10頭 | 2回 |
丹沢南麓D | 51頭 | 4回 | 30頭 | 5回 |
中津川B | 27頭 | 5回 | 22頭 | 5回 |
中津川C | 64頭 | 9回 | 22頭 | 3回 |
中津川D | 2頭 | 1回 | - | - |
合計 | 357頭 | 55回 | 330頭 | 47回 |
林床植生消失地における土壌保全対策
内容
- 目的 ブナ林の保全のため、急斜面用の保護柵と土留工を組み合わせた土壌保全工により、ブナ林の土壌を安定化させ林床植生の回復を図る。
- 内容 丹沢大山国定公園の特別保護地区及び特別地域内の林床植生の衰退を原因とする土壌流出が進行している地域において、様々な新工法の組み合わせによる土壌保全工を面的に展開し、ニホンジカ保護管理対策、植生回復対策等との一体的な実施によって、ブナ林の保全・再生を図る。 当面は特別保護地区(1,867ha)内において、20年間で延べ234haのうち、当初5か年で58.5haの整備を行なう。
東丹沢の堂平周辺及び天王寺尾根の林床植生衰退及び土壌流出が進行している地域において、丸太筋工、ロール工、急斜面用植生保護柵等を面的に組み合わせた新たな対策工の整備により、土壌保全工(46.80ha)の整備を行ないました。
なお、森林の保全・再生施策を展開するための基礎情報となる、デジタル航空写真撮影、航空レーザー計測等を行なうとともに、詳細な地形図の作成も行ないました。
実施状況
土壌保全工の実施
東丹沢の堂平周辺及び天王寺尾根の林床植生衰退及び土壌流出が進行している地域において、ネット付丸太筋工、金網筋工、ロール工、急斜面用植生保護柵等を面的に組み合わせた新たな対策工の整備により、土壌流出を防止するとともに、林床植生の回復を図ります。
平成19年度は、土壌保全工をはじめとする、森林の保全・再生施策を展開するための基礎情報となる高精度な地形データを取得するため、広域的なデジタル航空写真撮影、航空レーザー計測等を行なうとともに、詳細な地形図の作成及び対策工施工箇所の検討調査を行なったほか、堂平において土壌保全工(6.62ha)の整備を行ないました。
地形解析・測量、事業効果モニタリング
土壌保全工の実施をはじめとする、森林の保全・再生施策を展開するための基礎情報となる高精度の地形データを取得するため、広域的なデジタル航空写真撮影、航空レーザー計測等を行ない、詳細な地形図の作成や土壌保全工の施工箇所の設定に必要な地形解析、現地測量調査を行ないます。
平成20年度は、堂平、天王寺尾根、丹沢山東斜面の3地域において土壌保全工(17.09ha)の整備を行なったほか、次年度の施工箇所を対象とした現地測量調査、地形図の図化、施工箇所における事業効果モニタリングを行ないました。
平成21年度は、丹沢山東斜面、竜ヶ馬場周辺、瀬戸沢ノ頭周辺の3地域において土壌保全工(21.09ha)の整備を行なったほか、次年度の施工箇所を対象とした現地測量調査、地形図の図化、施工箇所における事業効果モニタリング等を行ないました。
林床植生消失地における土壌保全対策
ブナ林の林床植生衰退地における土壌保全対策事業実施のため、対策手法の開発・改良やモニタリング手法の開発・改良を行いました。また、斜面での土壌侵食現象や下流への微細土砂流出現象に関する基礎的データをフィールドで取得し、自然環境の総合解析におけるパラメータ設定等に活用しました。
平成17〜18年度に行った学識者による手法検討と現地での試験施工の業務に積み重ねて、平成19年度以降は以下の業務を行いました。
区分 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
自然林内における土壌保全対策手法の開発(手法検証) | ・対策手法のモニタリングと検証 | ・対策手法のモニタリングと検証 | ・対策手法のモニタリングと検証 |
流域全体の土壌侵食モニタリング手法の開発 | ・流域スケールの土壌侵食モニタリング基礎調査 ・流域を対象にした土壌保全マニュアルの検討 |
・流域スケールの土壌侵食モニタリング基礎調査 ・流域を対象にした土壌保全マニュアルの発行 ・斜面全体のモニタリング手法の検討 |
・流域スケールの土壌侵食モニタリング基礎調査 |
堂平地区において平成17〜18年度に試験的に施工した土壌保全工の効果検証モニタリング調査を行ったところ、全ての対策工において対照区の無施工地よりも土壌侵食量およびリター流出量が少なくなっていました。また、対策工法全体でリターの流出量が少ないほど土壌侵食量も減少する傾向が認められました。
なお、これまでの土壌侵食量の実態調査より、植生被覆率が8割より少なくなると土壌侵食量が増大することが分かっていますが、最も植生被覆率が大きかった植生保護柵でも、その被覆率は5割に満たなかったことから、現時点では本来の植生回復による土壌侵食軽減効果は十分には現れていないと考えられました。このため、今後もモニタリングを継続し、各種対策工の経年的な効果発現傾向を明らかにする必要があります。
また、流域スケールや斜面におけるモニタリング手法の開発を検討しました。
平成20年度には、これまでの成果を取りまとめて土壌保全マニュアルを発行しました。
絶滅危惧種および希少植物の保護・回復
内容
- 内容 ブナ林帯で確認された希少植物を植生保護柵等で囲い、健全なブナ林帯の生態系を保全する。
- 概要 大室山と丹沢山でシカの採食を減少要因とする県絶滅危惧種など多年生草本の個体数を調べた。大室山では2001年から2005年にかけて設置された植生保護柵内13箇所と柵外2箇所の合計15箇所で、多年生草本29種を対象として個体数を調べた。丹沢山では1997年と2003年に設置された植生保護柵内11箇所で多年生草本12種を対象として個体数を調べた。また、大室山では柵内外にセンサーカメラを設置することで、哺乳類の生息状況を調べた。
実施状況
大室山の希少植物調査では15箇所の調査で総計237種の植物が出現しました。
植生保護柵内外でシカの採食を減少要因とする県絶滅危惧種など多年生草本の個体数を調べたところ、『神奈川県レッドデータ生物調査報告2006』に掲載されているルイヨウボタン(絶滅種)、ミヤマアオダモ(絶滅危惧種)、オオモミジガサとレンゲショウマ(いずれも絶滅危惧TB類)、カラクサシダ(絶滅危惧U類)の5種が柵内でのみ出現しました。オオモミジガサとレンゲショウマはシカの採食を減少要因とする絶滅危惧種であり、両方ともに成熟個体を確認できました。
大室山の植生保護柵内で生育を確認したオオモミジガサとレンゲショウマはいずれも当該地域において1980年代まで記録のあった種であり、それ以降近年は報告のなかった種です。両種ともにシカの採食を減少要因とする絶滅危惧種であることから、これら2種の成熟個体を確認できたことは植生保護柵の効果があったと判断できます。
丹沢山の植生保護柵の結果からは、絶滅危惧種の多年生草本を保護するためには植生保護柵を早期に設置することが重要と判断されました。