神奈川県自然環境保全センター研究連携課 水環境モニタリング かながわの水源林バナー


アトラス水源林 -水源地域の山地と森林・自然環境の特徴-矢印アイコン



2.山地の地形と地質

 森林に降った雨は、大部分がいったん地中に浸透してから地下水となって河川に流出しますが、この一連の過程には、地形や地質といった要因も大きく関係します。 ここでは山地の特徴として、起伏や傾斜などの地形と、地層や構成する岩石などの地質について解説します。特に各山地の地質の特徴から、水源の森林エリアには、生まれも育ちも性格も異なるそれぞれの山地が同居しており、多様性に富んでいることがわかります。
  なお、各山地の位置や範囲については、こちらで定義したとおりです。
※森林の水循環の概要についてはこちら。より詳しい解説についてはこちらをご覧ください。

全県の標高帯ごとの分布(陰影段彩図)

 全県および県外上流域(相模川、酒匂川の上流域)について、地形が立体的に見える陰影図で表示し、標高帯を色分けしました。
  水源の森林エリアには、標高1500mを超える丹沢山地の主稜線部から標高300m以下の山麓部までが含まれ、人々が多く住む平野や丘陵等と比べて、起伏の大きい山岳地となっています。

広域の陰影段彩図
国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル10mメッシュ)より作成

傾斜30°以上の箇所の分布

 全県および県外上流域について10m四方のメッシュで平均傾斜30°以上の箇所を着色しました。平均傾斜30°以上の箇所は、県内でも山岳地かつ森林地帯である水源の森林エリアに集中しています。
 特に丹沢山地は、その山地のなりたちに起因して急峻な地形をしています。すなわち、プレートの境界に位置し山塊は地殻変動の影響で隆起・侵食作用を受け続けたことから、断層・亀裂の発達や渓谷部の開析が進み、複雑かつ深い渓谷と急峻な斜面で構成された険しい地形となっています。
  同じ山地であっても、火山噴火に伴う溶岩等の噴出物が堆積して形成された富士山や箱根火山は、比較的傾斜が緩やかです。
  このような傾斜や斜面位置は、森林土壌の厚さとも関係し、たとえば傾斜40°を超えるような急傾斜では土壌は比較的薄くなります。
※全県の土地利用・植生の分布はこちら

平均傾斜30°超える箇所の分布図
国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル10mメッシュ)より作成

各山地の標高帯別の平均傾斜

 各山地について、標高帯ごと(標高800m以上、標高300~800m、標高300m以下の3区分)に平均傾斜を求めました。
 いずれの山地も標高300m未満の山麓部では平均傾斜が20°未満であり比較的緩やかです。 標高300m以上では、平均傾斜30°未満の箱根外輪山が比較的傾斜が緩やかで、丹沢山地と小仏山地はいずれも平均傾斜30°を超え急峻です。
山地ごと標高帯ごとの平均傾斜
国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル10mメッシュ)より作成

各山地の主な地層

 日本列島は多様な地層で構成されていますが、神奈川県、そして水源の森林エリアも例外ではありません。
  水源の森林エリアの各山地ごとに代表的な地層を挙げると次のとおりです。これらの地層から、水源の森林エリアの各山地は、それぞれに生まれも育ちも異なっていることがわかります。
※地層とは、形成された年代や岩石の種類を基準に区分されたものです。
神奈川の地質について、より詳しく知る→かながわの大地(神奈川県立生命の星・地球博物館提供)

小仏山地 小仏層群相模湖層群
 県内でも最も古い岩石が堆積した地層で、より古いのは、北側に分布するおよそ1億年前(中生代白亜紀)に堆積した小仏層群です。 まだ日本列島もなかった頃、大陸から流されてきた砂・泥・礫などが海の中で静かに堆積・固結して形成された地層です。 同じような地層は関東から九州まで帯状に分布し、総称して四万十帯と呼ばれます。
丹沢山地(東部) 丹沢層群
 相模川沿いの低地を除いた丹沢山地東部のほぼ全域に分布し、詳細にはいくつかの亜層群に分けられます。
 およそ1700万年前(新生代新第三紀)以降に、はるか南の太平洋の海底で活発に活動していた海底火山の溶岩や火山噴出物が厚く堆積・固結してできた地層です。陸から流されてきた砂や礫はほとんど含まれていません。
 かつて南方で形成された海底火山噴出物が現在の位置で標高1500mを超える険しい山地になったのは、フィリピン海プレートの移動による北上と隆起、さらに長い間の侵食・崩壊作用によります。山体に断層や亀裂が発達しているのもこのためです。
 また、一般的に新第三紀の地層では地すべりが多く見られ、丹沢山地でも丹沢山北東の堂平や黍殻山南部は過去の地すべりによって形成された地形です。
丹沢山地(西部) トーナル岩・石英閃緑岩
 丹沢湖上流域のほぼ北側半分に、丹沢層群に取り囲まれるように分布し、鉱物の構成割合の若干の相違によって、トーナル岩または石英閃緑岩と呼ばれます。
 地下深くで花崗岩質のマグマがゆっくり冷えて固まってできた岩石(深成岩)であり、およそ700万年前までには、当時すでに堆積していた丹沢層群に下方から貫入してドーム状に固まりました。(このため、貫入岩体とも言われます。)
 風化されやすい性質があり、丹沢山地でも地表付近では風化が進んでいます。風化した石英閃緑岩類は脆いため、露岩地の浸食や表層崩壊の起こりやすさにもつながっています。
変成岩類
 複合貫入岩体であるトーナル岩・石英閃緑岩と丹沢層群の境界周辺に分布します。主なものに貫入岩体の東側(檜洞丸、丹沢山、鍋割山といった稜線)に分布するホルンフェルス、南側に分布する結晶片岩(緑色片岩)があります。
 丹沢層群にマグマが貫入する際に、プレート運動による圧縮やマグマの熱による変成作用を受けて性質の異なる岩石になったものです。
足柄層群
 山北町の南部、丹沢山地と箱根山地の間に挟まれた足柄山地に分布します。
 およそ250万年前、丹沢山地に南方から伊豆ブロック(現在の伊豆半島)が付加し、押された丹沢山地は著しく隆起しました。両者の間にはトラフ(舟状海盆)ができ、そこに、約70万年前(新生代第四紀)まで丹沢山地から侵食された土砂が堆積しました。これが後に陸化したのが足柄層群の地層です。
箱根外輪山 古期外輪山溶岩
 火山灰、軽石、スコリヤなどの火山噴出物と溶岩が共に堆積し、箱根外輪山を構成しています。
 伊豆半島北部に続いて、およそ65万年前(新生代第四紀)から火山活動が活発化した箱根火山では、特に25万~18万年前頃の噴火が激しく、その頃の噴火によって堆積した溶岩が古期外輪山溶岩です。その後、火山の中央部にカルデラが形成されたため、現在はカルデラの外縁でのみ古期外輪山溶岩の地層がみられます。
(参考文献:「かながわの自然図鑑①岩石・鉱物・地層」 神奈川県立生命の星地球博物館編 (株)有隣堂発行)

山地ごとの表層地質(大分類)の構成比

 地層は非常に多種に分類されていますが、その地層を構成する岩石は、火成岩・変成岩・堆積岩の3つに大別されます。
火成岩:マグマが地表や地表付近で固まったもの
変成岩:もとあった岩石が熱などの変成作用を受けて形成されたもの
堆積岩:岩石の破片や鉱物片が別な場所にたまって固まったもの
  ここでは、国土地理院の土地分類基本調査1/20万(表層地質図)で区分されている大分類(火山性岩石・深成岩・変成岩・固結堆積物・未固結堆積物)に従って、山地ごとに面積割合を算出し(下図)、山地ごとの地質の特徴を解説しました(下表)。前述の地層の相違から構成する岩石も山地ごとに異なり、特に透水性などの質の違いが山体の保水性に影響しています。
  なお、丹沢山地については、東西で表層地質の分布特性が異なるため、東西に分けて示しました。
※丹沢山地の東部と西部の境界を図示したものはこちら。
※国土地理院の土地分類基本調査1/20万(表層地質図)は、
こちら(国土交通省提供)で閲覧することができます。

山地ごとの表層地質(大分類)の構成

小仏山地  固結堆積物が大部分(93.8%)を占めることが特徴です。小仏山地に分布する固結堆積物とは、小仏層群や相模湖層群の岩石です。これらの岩石は透水性が悪いため、小仏山地ではどちらかというと基岩を覆う土壌やローム層によって水源としての保水性が確保されています。
 また、固結堆積物の占める割合が最も大きいという点では丹沢山地(東部)と共通しますが、両者は同じ堆積岩でも堆積した砂礫の供給源が異なります。(上記の「各山地の主な地層」を参照)
丹沢山地(東部)  最も多くを占めるのが固結堆積物(69.3%)、次に多いのが火山性岩石(26.0%)です。両者のうちの多くを占めるのが、いずれも丹沢層群の地層を構成する緑色凝灰岩(固結堆積物に分類)や火山角礫岩(火山性岩石に分類)です。また、全体の3.5%を占める未固結堆積物は、主に相模川などの河川沿いや河床に分布する河成堆積物の礫岩などです。
丹沢山地(西部)  他の山地ではわずかしか見られない深成岩や変成岩がおよそ半分を占めることが特徴です。残りの固結堆積物と火山性岩石は、丹沢山地(東部)と共通し、丹沢層群を構成する岩石が多くを占めます。
 丹沢山地(西部)では、特に風化した石英閃緑岩によって山体の保水性が発揮されています。
箱根外輪山  火山堆積物が大部分(約87.9%)を占めることが特徴で、主に箱根山地の噴火に由来する溶岩です。火山性岩石は透水性が良好であるため源流河川は地下浸透しやすく、箱根外輪山の中標高以上では涸れ沢が多くみられます。地下浸透した水は山麓で湧出、あるいは足柄平野の地下水となります。
 固結堆積物は全体の7.8%を占め、主に山北町境付近に分布する足柄層群の礫岩層などが該当します。未固結堆積物は、酒匂川沿いの低地に分布する沖積層などです。

山地ごとの表層地質(小分類)の主なもの

 国土地理院の土地分類基本調査(表層地質図)の小分類に基づき、山地ごとに面積割合で上位を占めるものを抽出しました。

順位 小仏山地 丹沢山地(東部) 丹沢山地(西部) 箱根外輪山
1位 砂岩黒色頁岩互層44.3% 緑色凝灰岩58.5% 石英閃緑岩30.9% 安山岩質岩石64.7%
2位 泥岩26.9% 火山角礫岩11.8% 緑色凝灰岩26.5% 武蔵野ローム(関東ローム)18.5%
3位 砂岩19.2% 武蔵野ローム(関東ローム)8.1% 結晶片岩11.8% 礫岩5.0%
備考 すべて小仏層群、相模湖層群を構成する岩石です。 緑色凝灰岩と火山角礫岩は丹沢層群を構成する岩石です。武蔵野ロームは、富士山の火山灰に由来し山麓周辺に分布します。 丹沢山地の深成岩は、ここではすべて石英閃緑岩に分類されています。
変成岩のホルンフェルスは6.2%であり、変成岩全体では全体の18%を占めます。
安山岩質岩石は、箱根火山の溶岩に由来し中標高以上に分布します。武蔵野ロームは富士山の火山灰に由来し山麓周辺に分布します。
※表中の色分けは、上記の「山地の表層地質(大分類)の構成比」の大分類(棒グラフの凡例)と対応し、緑が固結堆積物、赤が火山性岩石、紫が深成岩、青が変成岩に分類される岩石であることを示しています。
※国土地理院の土地分類基本調査1/20万(表層地質図)は、こちら(国土交通省提供)で閲覧することができます。

丹沢山地の東部と西部の区分

 ここでは、丹沢山地の地質の特徴をわかり易く表現するため、東部と西部に区分して(下図)各種集計を行いました。東西の境は、山北町と相模原市(緑区)または清川村の市町村界並びに、秦野市内の水無川流域(金目川水系)と四十八瀬川流域(酒匂川水系)の分水嶺としました。
丹沢山地の東部と西部の区分



ページの先頭に戻る