ここでは各山地の森林・植生・土壌の特徴について解説します。これらは、地形・地質、気候といった自然条件のもと森林・植生をはじめ動物も含んだ生物相全体や土壌が相互に作用し合うことで形成されます。さらに、過去の森林利用に伴う伐採・植林、カヤ場などの土地利用も現在の森林・植生・土壌に影響しています。
なお、各山地の位置や範囲については、こちらで定義したとおりです。
全県および県外上流域について、土地利用や植生を大きく区分して分布を示しました。
このように自然林・二次林・人工林(※下記参照)に大きく区分すると、水源の森林エリアのほぼ中央に自然林、その周囲に二次林と人工林が分布し、同じ森林であっても偏って分布していることがわかります。
森林の水源かん養機能の面からは、どの森林の機能が高い・低いといったことは一概には言えませんが、森林の管理においては通常は区別して扱われます。特に人工林では自然林や二次林と異なり、成熟した森林に育つまで間伐等の手入れが必要となります。
※自然林・二次林・人工林について
自然林:人の手が加わらない自然の状態の森林。
二次林:災害や人為によって一度破壊(あるいは改変)され、その後回復途上にある森林。過去に薪炭林として利用され今は放置されているところや、過去に山崩れの起きた場所でその後自然緑化したところなど。
人工林:人為的につくられた森林で、主に植林(神奈川ではスギまたはヒノキが多い)によります。
国土地理院土地保全基本調査(土地利用・植生現況図)より作成
上記の分布図について、水源の森林エリアを拡大した図と、各山地の標高帯ごと植生区分ごとの面積比率を円グラフで示しました。
自然林は、丹沢山地の高標高域(標高800m以上)の約4割強を占め、主にブナ、ミズナラ、カエデなどの落葉広葉樹が生育しています。
丹沢山地の中標高域(標高300~800m)以下は、本来はシイ、カシ類などの常緑広葉樹林が生育する環境条件ですが、古くから森林利用が活発であったため、現状ではコナラなどの二次林やスギやヒノキの人工林が多く分布します。
人工林の占める割合が多いのは小仏山地と箱根外輪山の中標高域で、いずれも人工林が75%を超え、残りの25%弱は二次林が大部分を占めます。
いずれの山地でも、低標高域(標高300m以下)では、市街地や農耕地などの森林以外の土地利用が3割以上を占め、水源の環境として中・高標高域とは少し異なることがうかがえます。
国土地理院土地保全基本調査(土地利用・植生現況図)より作成
国土地理院土地保全基本調査(土地利用・植生現況図)より作成
▽関連情報▽自然林をはじめとした丹沢の自然についてはこちら
丹沢大山の自然と登山の情報のポータルサイト(自然環境保全センター)
丹沢大山自然環境情報ステーション【e-Tanzawa】(自然環境保全センター)
人工林は間伐などの手入れを行う必要がありますが、植林後の手入れが遅れると水源かん養機能にも影響を及ぼすことが近年明らかになってきています(※説明はこちら)。
このため、水源の森林エリアにおいても、人工林がどこにどれだけ分布し、良好に管理されているのかどうかを把握する必要があります。
下図では、山地ごと標高帯ごとに人工林の面積率を示しました。水源の森林エリアの中で、特に人工林がまとまって分布する山地は、小仏山地の中・高標高域と箱根外輪山の中・低標高域です。
国土地理院土地保全基本調査(土地利用・植生現況図)より作成
▽関連情報▽
人工林の現況調査についてはこちら→水環境モニタリング(水源環境保全課提供)
県内の人工林や林業関係の統計情報→森林・林業関係統計(森林再生課提供)
森林の土壌は、岩石やその風化物が材料(母材)となり、気温や降水量などの気候、斜面位置や標高などの地形に加え、植物等の生物相からの有機物供給や土壌動物等による有機物分解などが作用して長い間を経てつくられます。土壌は、水や養分を貯蔵して植物の成長を支えるとともに、微生物等による有機物分解の場として、森林生態系の中でも特に重要な役割を担っています。
ここでは国土地理院の土地分類基本調査1/20万(土壌図)に基づいて、山地別、標高帯別の土壌分類ごとの面積比率を示しました。
いずれの山地においても、褐色森林土(※)と黒ボク土(※)によって大部分占められていますが、箱根外輪山以外では低標高域・緩傾斜地に黒ボク土の分布が比較的多く見られます。箱根外輪山では標高の高いほうに黒ボク土が多く分布します。褐色森林土は、尾根・斜面・谷などの斜面位置によって乾性~湿性のものまで分布します。
森林の水源かん養機能の面からは、これらの土壌分類をもとに機能が高い・低いといったことは一概には言えません。土壌に関しては土壌層の厚さが水源かん養機能に特に関係しますが、実際の森林では土壌層の厚さや土壌の下の基岩の風化帯の深さ、さらには基岩そのものの透水性などの諸条件が組み合わさって、さらに地上部の森林をはじめとした生物相全体の働きが一体となって、その場所の森林の水源かん養機能の発揮にかかわっています。
ただし、近年の水源林では、いくつかの要因によって土壌の表面を覆う下層植生が衰退し、それによって降った雨が土壌にしみこみにくくなり、水源かん養機能の低下が危惧されています。(くわしい説明はこちら。)
※森林土壌の分類
褐色森林土:温暖湿潤気候の森林下に多く分布する土壌のタイプで、日本列島に広く分布します。
黒ボク土:火山噴出物からできた土壌です。(水源の森林エリアでは、箱根火山あるいは富士山の過去の噴火の影響を受けています。)火山灰が母材であることに加え草原植生のもとで生成された土壌です。カヤ場などの過去の土地利用も影響していると考えられています。
※国土地理院の土地分類基本調査1/20万(土壌図)は、こちら(国土交通省提供)で閲覧することができます。